前項のキョウチクトウと同じように、実・種を見たことが無い、でも身近な樹木キンモクセイを紹介します。いや、キョウチクトウ以上に実・種を探すことは困難です。おばかな筆者も意地になって実・種の写真等を探しましたが、見つけることが出来ませんでした。何故でしょうか?
キンモクセイ(金木犀)は、ゴマノハグサ目、モクセイ科、モクセイ属の植物で、ギンモクセイの変種です。そう、馴染み深い樹木ですが、むしろ少数派と思えるギンモクセイが基本主。変種の方が花が美しく、香りも派手であったため主役となってしまったと言うことです。原産地は中国で、日本に持ち込まれたのは江戸時代。キンモクセイの中国名についても、実は誤解されています。日本では「桂花」と思われていますが、これはグループ名であり「丹桂」が正解であるから。
樹木としての特徴としては、雌雄異株、常緑の小高木、長円形の硬い葉、10月頃にオレンジの花を群開させ美しい、その花には強い芳香がある、病害虫が少なく育てやすい、などを上げることができます。ただ、筆者の私見では虫害はかなり多い樹木であるように思います。
さてここからが、「+αの植栽・・・」の本番。キンモクセイのどうでも良い?うんちくを列記しておきます。まず、冒頭テーマの、実・種を見ることが出来ない理由について。答えは、より花が美しく香りが強い雄株のみが輸入され、雌株が存在しないため。従って、日本のキンモクセイは全て挿し木により繁殖されています。ところが、ここで更なる問題も。マニアやへそ曲がりが、原産地中国で、実・種を求めたり、写真を入手しようとしても、事情は日本と同じで、少なくとも一般人には入手困難であるとの事。まさか、学術研究の分野も含め、雌株喪失=事実上の種の滅亡、などと言うことではないでしょうが、雌のいないキンモクセイ、何となく気の毒な気がします。
2つ目のキンモクセイのエピソードはその芳香に関するもの。当然、古来から香りが様々な形で利用されてきました。最も有名なものが「桂花茶」。中国茶の1つですが、花と葉を使ったもので、勿論その素晴らしい香りが最大の売り物。香りブームの昨今、貴方もお試しを・・・
でも、キンモクセイの香りには気の毒なエピソードもあります。実は、日本で芳香剤メーカーが最初に狙いを付けたのがキンモクセイでした。そして、当時は芳香剤と言えばトイレ。そして、トイレ用のキンモクセイ系芳香剤が普及すると、トイレ臭=キンモクセイ、と言うマイナスイメージが出来上がり、以後は次第に姿を消していったようです。そういえば、最近の芳香剤、キンモクセイの香りと言うものにはあまりお目にかかりません。
伴侶を失った雄株達の実情、香りに対する濡れ衣・・・今も私たちを楽しませてくれるキンモクセイですが、人間の身勝手から生まれた、少し可愛そうな樹木でもあるようです。